デジタル信号処理とは

源信号s(t)に白色雑音η(t)が加わった観測信号x(t)を得て、できるだけ源信号に近い信号を推定する問題を考える。

x(t)=S(t)+η(t)    (1)

これは、現時刻tまでの観測信号の情報から最適なt時刻の信号を求める問題であり、最適なフィルタリング問題と呼ばれる。 最適性は誤差を二乗和の意味で最小化するものとし、これをLMS(Least Mean Square estimete)推定量と呼ぶ。これをS*(t|t)=s*(t)で表わす。t期までの観測信号に基づくt期の信号推定値の意味である。 この推定値S*(t)は、過去の観測値の線形和で表わされる。

S*(t)=aoX(0)+a1x(1)+a2x(2)+....+atx(t)    (2)
  • ここでは、スカラー信号の場合でまず解説し、その後一般のカルマンフィルタの状態推定を紹介する。

再帰的推定

再帰式で推定式が記述できると、メモリや計算量も少なく好都合である。そこで、次の線形再帰式で推定値が与えられると仮定しよう。

S*(t)=Bts*(t-1)+Ktx(t)     (3)
  • これは前時点の推定値による予測値BtS*(t)を現在の観測信号で修正することで、現在の推定値を得ることを表わしている。
  • 問題は、このBtとKtをどのように決定すれば誤差二乗和を最小にできるかという点にある。

誤差共分散について

  • 観測信号に加わる雑音η(t)は、平均0、分散σ^2であり、時間的に無相関かつ信号S(t)とも無相関と仮定する。
  • 源信号の推定誤差e(t)と推定誤差共分散
    e(t)=S(t)-S*(t)      (4-1)
    E{e(t)^2}=σ*(t)^2    (4-2)
    としよう。
  • ここで、相関係数を計算あるいは、定義しよう。
    • 信号s(t)と過去の観測値x(t-l)との相関
      E(s(t)x(t-l))=E(s(t)[S(t-l)+η(t-l)])=E(S(t)s(t-l))=Rs(l)   (5)
    • 観測値の自己相関
      E[x(t)x(t-l)]=Rs(l)+σ^2δ(l)     (6)
    • 観測値と雑音の相互相関
      E[x(t)η(t)]=σ^2       (7)

時変係数BtとKtの決定

誤差二乗和の期待値を次式で定義する

J=Σ E[e(t)^2]
e(t)=S(t)-S*(t)=S(t)-{aoX(0)+a1x(1)+a2x(2)+....+atx(t)}

誤差二乗和を最小にするためには、Jをパラメータat,t=0~tで偏微分して、0となる必要がある。

E[e(t)x(t-l)]=0 l=0,1,2,3,...,t      (8)
  • これを直交射影の原理と呼ぶ。現在時点tでの推定誤差は、過去の観測値x(t-l)と直交する。
  • 一方、推定誤差共分散は、e(t)=S(t)-S*(t)であるので、
    σ*(t)^2=E[e(t)^2]=E[e(t)(S(t)-S*(t))]=E[e(t)s(t)]  (9)
    とも書ける。

直交原理からBtとKtの決定を行いたい。

  • l=0の時の直交原理
    • x(t)=S(t)+η(t)を直交原理の(8)式に代入して
      E[e(t)x(t)]=E[e(t)(S(t)+η(t))]=E[e(t)S(t)]+E[e(t)η(t)]=0
    • 右辺の第1項は、直交原理からσ*(t)^2に等しい。そこで
      σ*(t)^2 + E[e(t)η(t)]=0
    • 右辺の第2項の中のe(t)は、漸化式を使って次のように書きかえられる。
      e(t)=s(t)-S*(t)=s(t)-Bts*(t-1)-Ktx(t)}
  • 上式を代入し、  σ*(t)^2 + E{[s(t)-Bts*(t-1)-Ktx(t)]η(t)}=0
  • 信号s(t)と雑音η(t)は無相関なので
    σ*(t)^2 + ktE(X(t)η(t))=0
  • (7)式を使って
    σ*(t)^2 + ktσ^2=0
  • この結果から、Ktは、推定誤差分散と観測雑音分散の比で表わされる。
    kt= σ*(t)^2 /σ^2
  • l>0 の場合の直交原理 E[e(t)x(t-l)]=0 l=1,..,tより
    E[e(t)x(t-l)]=E[{s(t)-Bts*(t-1)-Ktx(t)}x(t-l)]
    =E[S(t)x(t-l)]-BtE[s*(t-1)x(t-l)]-KtE[x(t)x(t-l)]=0
    • 上式の第1項
      E[S(t)x(t-l)]=E{S(t)[S(t-l)+η(t-l)]}=E(S(t)s(t-l))=Rs(l)
    • 上式の第2項 S*(t-1)=s(t-1)-e(t-1)であり、これを代入して、e(t-1)がx(n-l)と直交することから
      E[s*(t-1)x(t-l)]=E[s(t-1)s(t-l)]=Rs(l-1)
    • 上式の第3項 lが0でない場合、δ(l),L=1,...,tはすべて0なので
      E[x(t)x(t-l)]=E{s(t)s(t-l)}+E{η(t)η(t-l)}=Rs(l)
    • 以上の整理をすれば
      Rs(l)-BtRs(l-1)-ktRs(l)=0  l=1,2,....,t
    • 結局、Btは次の漸化式となる。
      Rs(l)-{Bt/(1-Kt)}Rs(l-1)=0 l=1,2,....,t
      これらを逐次更新するためには、源信号の自己相関Rs(l)を生成する漸化式を必要とすることがわかる。

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Last-modified: 2010-08-27 (金) 22:45:34 (5001d)