レジームとは †レジームとは、資本市場の状況、好況(expansion)・不況(recession)を意味する。 レジームを離散的な状態空間において表現し, これがMarkov 過程に従うと考える. 例えば, 市場には好況レジームと不況レジームという2 つのレジームが存在するという簡単な状況を考える。レジームは、2つである必要はなく、5つの場合などあっても良い。 レジームの表現モデル:好況・不況の2レジームの場合 †離散時点t (t = 1, . . . , T ) において, 市場には2種類のレジームが存在すると仮定し, これを確率ベクトルY = {Yt ; t = 1, . . . , T } によって表す。各時刻で2種類のレジームの状態を表わす確率変数を列ベクトルe1, e2で表わす。eiのiは、レジームiを表わし、1:好況。2:不況とする。eiは、好況ならばe1=(1,0)、不況ならばe2=(0,1)の値をとる確率変数である。 時刻tにおいて、好況である確率をpt、不況である確率を(1-pt)で表わすと、レジームYtの期待値は、次式で表わされる。Ytは、(1,0)、または(0,1)の値をとる確率変数であるので E(Yt)=pt[1,0]'+(1-Pt)[0,1]'=[pt,(1-pt)]' 'は転置記号。 この時、マルコフスィッチングとは、時刻tからt+1への推移が、次の1次マルコフ過程に従うとするモデルである。 時点t におけるレジームei から、時点t + 1 でのレジームej への推移確率を, pji = Pr(Yt+1 = ej |Yt = ei ) ≥ 0 で定義する。但し, 時点t からt + 1 へ進むときには, 必ず2個のレジームのうち, いずれかのレジームに推移するので、 p1i+p2i=1 である。 次の時点t + 1 におけるレジームを表わす確率変数Yt+1 の条件付期 待値は, E [Yt+1 |Yt = ei] =Pr(Yt+1 = ej|Yt = ei) · ei=pji · ei で表わされる Hamilton(1989)マルコフスィッチングモデル †マクロ変数の平均成長率の値が景気の良し悪しによってスイッチするモデルである。そこで,まず,景気が拡張期にあるか後退期にあるかを表すために,次のような変数を導入する。 St=1 :景気拡大 St=0 :景気後退 あるマクロ変数の成長率(対数値の1回階差)をyt と表すことにし,その変動を以下のようなAR モデルによって定式化する。 yt = μ(st)+φ1(yt-1-μ(St-1))+φ2(yt-2-μ(St-2))+....+ φp(yt-p-μ(St-p))+ηt ηtは、独立無相関な正規分布 N(0,σ) μ(st)はyt の平均,すなわち,マクロ変数の平均成長率を表す。添字にSt が付いているのは,景気後退期か拡張期かによってその値が変化することを意味する。 具体的には μ(st)=μ0(1-St)+μ1St 但しμ0<μ1 この定式化の下では,景気後退期(St =0)の平均成長率はμ0,景気拡張期(St =1)の平 均成長率はμ1 になる。
特に,Hamilton(1989)モデルでは,St が以下のような推移確率を持つマルコフ過程に従うものと仮定する。 Pr [St =0 |St-1 =0] =p00 Pr [St =1 |St-1 =0] =1-p00 Pr [St =0 |St-1 =1] =1-p11 Pr [St =1 |St-1 =1] =p11 状態推移確率はp00とp11の2つの確率をもつマルコフ過程で表わされている。
構造変化を考慮して拡張したマルコフスイッチングモデル †アメリカでは1980年代中ごろから景気変動が安定化したという指摘がなされており、Kim and Nelson(1999)は,景気変動の構造変化を考慮して,Hamilton(1989)モデルを次のように拡張している。まず,構造変化点をτ とすると,その前後を表すダミー変数を以下の ように定義する。 Dt= 0 t<τ Dt= 1 τ< or = t そして、このダミー変数を用いて、構造変化点の前後でDtを用いて、平均と分散が変わるように定式化している。
レジーム定義関数 †K種類のレジームがあると一般化して考える。各時点のレジームの実現確率を Prob(Yt=ek)=P(k) で表わすことにする。 各時点tにおいて、K種類のレジームのうち何れかが市場を支配していると考える。レジームの状況は、ek,k=1~Kの単位列ベクトルで表わす。ekは、第k要素が1,その他が0の値をとる単位ベクトルである。これを確率変数と考える。 各時点におけるレジーム定義関数は次式で表わされる。 It(k)=<Yt,ek> k=1~K =1(Yt=ekの時) または0(それ以外の時) これによって、各時点でどのレジームが実現しているかを表わすこととする。 この定義関数の期待値は、レジームYtが第kレジームekをとる確率を表わす。 E(It(k))= Prob(Yt=ek)・1+Prob(Yt<または>k)・0 =Prob(Yt=ek) =Prob(<yt,ek>=1) =P(k) である。 レジームの推移確率:1次マルコフ過程 †レジームYtは次のマルコフ過程に従うと仮定する。 Pij=Prob(Yt+1=ei,Yt=ej) ΣPij=1 但しjについての合計 時間によらず推移確率は一定と仮定している。推移した時、いずれかのレジームに推移するので、jのついてPijを合計すれば1となる。 レジームYtが条件としてt+1期のレジームYt+1の期待値は E(Yt+1|yt)=A・yt A:pijを要素に持つ行列 である。 収益率の対数正規モデル †資産の収益率Rt,t=1,nがレジームYtが所与の下で以下のように表わされると仮定する。 Rt|Yt=μ(Yt)+Q(Yt)^(1/2)εt 但し、E(εt)=0 E(εtεt-i')=I なる独立な標準正規誤差項 レジーム定義関数を用いれば、平均と分散のパラメータは、次式で表わされる。 μ(Yt)=ΣIt(k)μ(k) Q(Yt)=ΣQ(k)μ(k) レジームの数だけの平均と共分散のパラメータがあり、レジームに応じて異なる値を持つ。 最尤推定法によるパラメータ推定 †レジームスィッチングモデルのパラメータは最尤推定法によって、求めることができる。
景気拡大と景気後退の確率 †Hamilton(1989)のフィルターおよびKim(1994)のスムーザーを適用すると,景気後退期である事後確率Pr[St =0 |y1,...,yT ] を各期各期計算することができる。
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