最小分散ポートフォリオとは †n個の資産が市場に存在し、それらの収益率の期待値をE(ri),i=1~nとし、共分散をσij,i,j=1~nとする。これらの上でポートフォリオを構築する時、期待値E(r)=ΣwiE(ri)が一定のもとで、その分散を最小化するポートフォリオを最小分散ポートフォリオと呼ぶ。
ポートフォリオの分散とは †ポートフォリオの分散は次式で定義される。 V(rp)=E[(rp-E(rp)^2] E(rp)=ΣwiE(ri)なので =E[[Σwiri-wiΣE(ri)]^2] =E[[Σwi(ri-E(ri))]^2] 期待値の中身が和の二乗であることに注意すると,以下のように整理することができる. =E[ΣΣwiwj(ri-E(ri))(rj-E(rj))] i=1~n,j=1~n =ΣΣwiwj・E(ri-E(ri))(rj-E(rj)) 共分散σijは E(ri-E(ri))(rj-E(rj))で定義されるので、分散は次のように表現される。 V(rp)= ΣΣwiwjσij ただし、σiiは、i資産の分散σi^2に一致することに注意すること。 マコービッツ問題の解 †最小化すべき目的関数J(w1,w2,----,wn)は、 J=(1/2)ΣΣwiwjσij --->Min 制約条件は Σwi・E(ri)=E(rp) Σwi=1
ラグランジュ乗数 λとμを用いて、ラグランジアン L を次式で定義する。最小化の必要条件は、重みwi,i=1,n とスカラー変数λとμ について、極値をとることである。 L=(1/2)ΣΣwiwjσij + λ[E(rp)-Σwi・E(ri)] + μ(1-Σwi) まずは2変数の場合で解いてみよう。 L=(1/2)(wi^2σ1^2+w1w2σ12+w1w2σ21+w2^2σ2^2) -λ[E(r1)w1+E(r2)w2-E(rp)] -μ(w1+w2-1) ラグランジアンをw1,w2,λ,μについて偏微分して、それをゼロとおくことで次式を得る。σ12=σ21も使って σ1^2w1+σ12w2-λE(r1)-μ=0 σ21w1+σ2^2w2-λE(r2)-μ=0 Σwi・E(ri)=E(rp) Σwi=1 上の4つの連立方程式を、w1,w2,λ,μの4つの未知数について解くことで最小分散ポートフォリオを求められる。線形であるので、線形連立方程式の数値解法で求めることができる。 危険資産のポートフォリオ:ベクトル表示 †上記の計算をベクトル表示で行ってみよう。 目的関数は、分散W'ΣWであり、ラグランジェ関数は、E(rp)をμpで定義すれば L(W)=(1/2)W'ΣW +λ(rp-W'r)+μ(1-W'1) --->Min by W 但し μr=(E(r1),E(r2))' 1=(1,1)' W=(w1,w2)' Σ=|σ11 σ12 | =|σ21 σ22 | 停留条件は、L(w)をWで偏微分して0と置くことで ΣW - λ・μr -μ1 =0 μp=W'μr w'1=1 後の2つの式は制約条件になっている2本の式である。最初の式は、2行1列のベクトル表示であり、ベクトルWの各要素でラグランジェ関数を偏微分して導出された。 この解を求めてみよう。 第1式より W= λ Σ^(-1)μr +μ Σ^(-1)1 共分散行列の逆行列をQと定義しよう。 Q=Σ^(-1) そうすれば W=λ Qμr +μ Q1 両辺を転置すれば、Qは対称行列であるのでQ'=Qより W'=λ・μr'Q + μ・1'Q このW'を、2つの制約式に代入すれば、次の2本の式を得る。 λ{μr'Qμr} + μ{1'Qr} =μp λ{μr'Q1} + μ{1'Q1} =1 このλとμの2つのスカラー変数の連立方程式を解けば良いことが判る。係数{・}は内積の形となっておりスカラー係数であり、いずれの係数もσij,E(ri)(i=1~2,j=1~2)の関数となっている。 2資産の場合の係数を具体的に表わしてみよう。 Q=Σ^(-1)=adjΣ/detΣ detΣ=σ11σ22-σ12^2 adjΣ=|σ22 -σ21| |-σ12 σ11| であるので、2本の式を A λ + Bμ=μp B λ + Cμ=1 で表示すれば A=μr'Qμr=(E(r1),E(r2))(E(r1)σ22-E(r2)σ21 ,-E(r1)σ12+E(r2)σ11)'/detΣ = (E(r1)^2σ22 + E(r2)^2σ11 -E(r1)E(r2)σ12)/(σ11σ22-σ12^2) B=1'Qμr={E(r1)(σ22-σ12) + E(r2)(σ11 -σ12)/(σ11σ22-σ12^2) C=1'Q1=(σ22 + σ11 -σ12)/(σ11σ22-σ12^2) で表わせる。 このA=μr'Qμr、B=1'Qμr、C=1'Q1を使って、連立方程式から未定乗数をもとめれば λ=(Cμp-B)/(AC-B^2) μ=(A-Bμp)/(AC-B^2) の式で一般のn資産の場合も求められる。 これを使ってポートフォリオWを計算すれば W=λ Qμr +μ Q1 より W={(Cμp-B)Qμr + (A-B・μp)Q1}/(AC-B^2) 但し、Q=Σ^(-1)、A=μr'Qμr、B=1'Qμr、C=1'Q1 で表わされる。これが最小分散ポートフォリオである。 2資産の場合のW1は、面倒な計算ではあるが、要素表示すれば W1={(Cμp-B)/(AC-B^2)}{(σ22E(R1)-σ12E(r2))/(σ11σ22^2-σ12^2)} +{(A-Bμp)/(AC-B^2)}{(σ11E(r2)-σ12E(r1))/(σ11σ22-σ12^2)} =(σ22-σ12)/(σ11-σ22-2σ12) そして W2=1-W1 で表わされる。第1資産の保有率w1は、第1資産のリスク(分散σ11)が小さい程、そして第2資産のリスクが大きい程、保有率を高めれば良い。また第1資産と第2資産の共分散σ12が負で大なるほど、保有率を高めることになる。
この最適保有率の下での、ポートフォリオのリターンrpとリスク w'Σwを求めてみよう。 μp=W'μr 停留条件式は ΣW - λμr -μ1 =0 であった。この両辺にW'を掛けると W'ΣW=λW'μr+ μW'1 を得る。 すなわち、以下のように整理できる。 w'Σw=λW'μr+ μW'1 W=λ Qμr +μ Q1 λ=(Cμp-B)/(AC-B^2) μ=(A-Bμp)/(AC-B^2) 但し、Q=Σ^(-1)、A=μr'Qμr、B=1'Qμr、C=1'Q1 縦軸に収益の期待値y=rp、横軸に収益の分散x=W'ΣWをとれば、点(X,Y)の関係式は次式で表わされる。 X=(λ^2)A+2(λμ)B+(μ^2)C λ=(C・y-B)/(AC-B^2) μ=(A-By)/(AC-B^2) 但し、Q=Σ^(-1)、A=μr'Qμr、B=1'Qμr、C=1'Q1 μは、ある定数であり、λもμもyの一次式であるので、Xはyの2次式(放物線)で表わされることが判る。 これが、リスク資産の効率的ポートフォリオである。 危険資産の最適点:マーケットのポートフォリオ †次に、固定金利rfを表わす点を、分散が零なので、y軸上の1点(0,rf)で表わすことにする。 この点と効率的ポートフォリオを表わす点(x*,y*)の2点を結ぶ直線を考える。 この直線の傾きを最大とする点Mを求めてみよう。 直線の傾きβは、 β=(y*-rf)/X* 但しy*とX*は前記の効率的フロンティアの放物線上の点。 で表わされる。 m個の危険資産のポートフォリオ †ベクトル形式で定式化しよう。 収益率の確率ベクトルを R=(r1,r2,...,rm)'とおく。この平均値をμ=(μr1,...,μrm)'ベクトルで表わす。 そして、共分散行列をΣ={σij}とする。 各資産をwiだけ保有するポートフォリオを重み付けベクトルW=(w1,w3,...,wm)'で表わす。 この時のポートフォリオの収益率の平均値と分散は次式で表わせる。 E(rp)=W'μ V(rp)=W'ΣW いま、期待収益率E(rp)の目標値をμpと定めたとしよう。 期待収益率μpを与えるポートフォリオ(重み付け)は、一般に多数考えられるが、リスク(分散)が少ない程好ましいと投資家は考えるでしょう。 下図で示すように、3資産の場合の収益率の期待値と分散は、いろいろな値をとりうる。 Markovitzの最小分散問題は、図の太線で示した左上の領域(放物線の上半分)の領域を求める問題です。
これは、線形制約のもとで、Wの2次関数を最小化する2次計画問題である。 (1/2)V(rp)=(1/2)W'ΣW --->最大化 制約式:E(rp)=W'μ=μp(一定)。1'W=w1+w2+...+wm=1 但し 1'=(1,1,...,1) ベクトル 有効フロンティアを解いてみよう。 停留条件は、下記のラグランジェ関数を最小化すればよい。 L(W)=(1/2)W'ΣW - λ1(W'μ-μp) -λ2(1'W-1) 停留条件は∂L/∂W=0より、最適解W*は ΣW*-λ1μ-λ21=0 W*=Q[λ1μ+λ21] 但しQ=Σ^(-1) これをW*'μ=μp と1'W*=1に代入して λ1(μ'Qμ)+λ2(1'Qμ)=μp 1'Q[λ1μ+λ21]=1 から、ラグランジェ定数を求められる。2番目の式からλ2を求めよう。 λ1(1'Qμ)+λ2(1'Q1)=1 より λ2={1-λ1(1'Qμ)}/(1'Q1)をW*に代入すると W*=Q[λ1μ+λ21]=Q[λ1μ+{1-λ1(1'Qμ)}/(1'Q1)・1] =λ1Q[μ-(1'Qμ)/(1'Q1)・1 + (1/1'Q1)Q・1 となる。残されたラグランジェ変数はλ1のみである。1番目の式からλ2を代入消去すれば λ1(μ'Qμ)+λ2(1'Qμ)=μp λ1(μ'Qμ)+[{1-λ1(1'Qμ)}/(1'Q1)](1'Qμ)=μp λ1{μ'Qμ-(1'Qμ)^2/(1'Q1)}+(1'Qμ)/(1'Q1)=μp よって、λ1は次式で与えられる。 λ1={μp-(1'Qμ)/(1'Q1)}[(1'Q1)/{(μ'Qμ)-(1'Qμ)^2/(1'Q1)} W*を整理すれば W*=λ1Q[μ-(1'Qμ/1'Q1)1] + (1/1'Q1)Q1 の形となる。 そこでW*-(1/1'Q1)Q1を使って [Σ[W*-(1/1'Q1)1'Q]Σ[W*-(1/1'Q1)Q1]=(λ1)^2[μ'-(1'Qμ/1'Q1)1']QΣQ[μ-(1'Qμ/1'Q1)1] 左辺は W*'ΣW*-2W*Σ(1/1'Q1)Q1+(1/1'Q1)^21'QΣQ1 =W*'ΣW*-2(1/1'Q1)W*1+(1/1'Q1)^21'Q1 ΣQ=I(単位行列)であり、W*1=1なので =W*'ΣW*-2(1/1'Q1)+1/1'Q1 =V*(rp)-1/1'Q1 となる。 右辺は (λ1)^2[μ'-(1'Qμ/1'Q1)1']QΣQ[μ-(1'Qμ/1'Q1)1] =(λ1)^2[μ'Qμ-2(1'Qμ/1'Q1)1'Qμ +(1'Qμ/1'Q1)^2・1'Q1] =(λ1)^2[μ'Qμ-2(1'Qμ)^2/1'Q1 +(1'Qμ)^2/1'Q1] =(λ1)^2[μ'Qμ-(1'Qμ)^2/1'Q1] 両辺を再表示すれば V*(rp)-1/1'Q1=(λ1)^2[μ'Qμ-(1'Qμ)^2/1'Q1] となる。すでに求めたλ1を代入整理すると、完成である。 このことから、期待収益μpと収益の最小分散V*(rp)=W*'ΣW*の関係式は、 [V*(rp)-1/1'Q1]{μ'Qμ-(1'Qμ)^2/(1'Q1)}=[μp-1'Qμ/1'Q1]^2 が成り立つ。 ''これが、有効フロンティアの式である。 期待収益μpの2次関数で、最小分散V*(rp)が表わされているので、収益率と分散の平面上では、放物線上に位置する。'' 平均-分散平面上の放物線:有効フロンティア †上の導出から、リスク資産のポートフォリオについて、縦軸yに期待収益(y=μp)、横軸xに最小分散値(x=V*(rp))をとれば、次の放物線で有効フロンティアが表わされることが判った。 (y-a)^2=c(x-b) 但し、a=1'Qμ/1'Q1、b=1/1'Q1、c=μ'Qμ-(1'Qμ)^2/(1'Q1) このように、係数(a,b,c)は、共分散行列の逆行列Qを使って、事前に1'Q1と1'Qμを計算しておけば求められる。 それでは、安全資産rfと有効フロンティアを結ぶ直線が有効フロンティアの放物線と接するM点を求めてみよう。これは、分離定理におけるリスク最適化の解である。 直線の式はy=βx+rfで表わされるので、これを前記の(y-a)^2=c(x-b)に代入して、根が1つ(重根)となる条件を計算すればよい。 M点(xM,yM)は xM=(1/β){c/(2β)+a-rf} yM=c/(2β)+a β=(yM-rf)/xM で表わされる。
効率的フロンティアと可到達領域 †横軸にポートフォリオの分散、縦軸に期待値をとるダイアグラムを考える。 効率的フロンティアとは、最小分散点よりも上半分の期待利回りを得ることができるポートフォリオの集合である。一般に、リスク回避的な投資家は、この効率的フロンティアの上が最善の投資と考えるためである。
安全資産も含めたポートフォリオ †無リスク資産の重みをwとし、リスク資産の重みは1-wとしよう。 平均E(r),分散σ^2の資産rと、一定利回りrfの無リスク資産のポートフォリオの収益率rpは、共分散E[(r-E(r))(rf-rf)]=0となるので、 E(rp)=w・rf+(1-w)・E(r) σp = (1-w)σとなる。 w=1-σp/σを代入して、wを消去してみよう。 E(rp) = (1-σp/σ)rf+(σp/σ)E(r) W=1の時、σp=0でありE(rp)=rfとなる。また、w=0の時、σp=σでありE(rp)=E(r) これは、平均-分散平面上では、点(0,rf)と点(σ^2,E(r))を結ぶ直線になる。 トービンの分離定理 †上の図でわかるように、最適点Mは、ユニークに決められる。これは、無リスク資産と危険資産の効率的フロンティアを結ぶ直線の内で傾きを最大化するような点で与えられるので、効用関数とは無関係に計算可能である。 一方、安全資産と危険資産の組み合わせを行った場合の最適点は、効用関数によって異なり、よりリスクを回避したい場合は、安全資産をより多く保有する点を選ぶことになる。
練習問題:3つの無相関な資産の場合 †3つの互いに無相関な資産がある。どの資産も分散は1であり、その平均値はそれぞれ1,2,3であるとする。この時次の問題を解け。
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