同時推定の考え方 †線形離散時間モデルのパラメータと状態を同時に推定する方法を解説する。 尤度方程式を解くとパラメータに関する線型方程式と状態に関する線形方程式が得られる。この方法は2つの方程式を交互に繰り返して推定する。
ここで提案した方法は漸近的に有効な推定値を与える。
線形離散時間モデル †入力utと出力ytの観測データに基づいて、離散時間モデルを逐次推定する方法を紹介する。 線形動的システムのモデルとして、次の最も簡単な1次モデルをまず考えよう。 xt+1=fxt+gut+vt 状態推移式 yt=xt+wt 観測式
尤度関数 †パラメータが所与のもとで、n期までの観測データの確率密度関数を次のように表記し、この確率密度関数を最大とする推定値を求める。パラメータベクトルをΘ=(f,g)'とする。 Ln(Θ)=P(YDn,XDn|Θ) パラメータベクトルをΘ=(f,g)'とする。 YDnはn期までの出力データ:YDn={yt}t=1,~n XDnはn期までの入力データ:xDn={xt}t=1,~n ここで、n期までのデータに基づく推定値を次のように表記する。 f*n,g*n:n期までのデータに基づくfとgの推定値。 Θn*=(f*n,g*n):n期までのデータに基づくパラメータの推定値 x*k|n :n期までのデータに基づく事後的な状態推定値。
簡単な試算 †t期の状態変数が、初期状態とt期までの入力とシステムノイズから、正規確率密度関数であらわされることを試算してみよう。 x1=fx0+gu0+v0 x2=fx1+gu1+v1=f^2x0+fgu0+gu1+fv0+v1 x3=fx2+gu2+v2=f^3x0+f^2gu0+fgu1+gu2+f^2v0+fv1+v2 =f^3x0+(f^2gu0+fgu1+gu2)+(f^2v0+fv1+v2) ..... より xt=f^tx0+ Σf^(t-1-i)ui+ Σf^(t-i)vi t=0,1,2,... Σ は i=0からt-1までの合計 で表される。 これは、確率変数x0,viの加法和であり、互いに無相関で、それぞれ独立な正規分布であった。 uiは既知の入力系列である。そこで、t期の状態変数が正規確率密度関数で表されることがわかる。 また、観測地も観測方程式より、正規確率密度関数で表されることがわかる。 尤度関数の計算 †逐次推定を行うので、尤度関数を書き直して、正規分布の積の形に表せることを示す。 ベイズの定理より、尤度関数の漸化式がえられる。 Ln(Θ)=P(YDn,XDn|Θ) =p(yn,xn|Θ,XDn-1,YDn-1)P(XDn-1,YDn-1|Θ) =P(yn|xn)P(xn|Θ,xn-1)Ln-1(Θ) 尤度関数のn=0での同時確率は、次式の通り。 L0(Θ)=p(yo,x0|Θ)=P(y0|x0)p(x0) 尤度関数の第1項の計算は、観測式yt=xt+wtより、xnが所与のときのynの確率密度関数は P(yn|xn)=N(xn,σw^2) n=0,1,2,... で表される。 尤度関数の第2項の計算は, P(xn|Θ,xn-1)=N(fxn-1+gun-1,σv^2) これらを用いて、尤度関数の漸化式から、最終的な尤度関数は、正規分布の積で表され Ln(Θ)=P(yn|xn)P(xn|Θ,xn-1)Ln-1(Θ) =N(xn,σw^2)N(fxn-1+gun-1,σv^2)Ln-1(Θ) これより、求める尤度関数は以下の正規分布である。 Ln(Θ)=(2πσw)^(-n-1)・σv^(-n)・σ0^(-1) EXP{-Σ[(yi-xi)^2/(2σw^2)]-Σ[(xi-fxi-gui)^2/(2σv^2)]-(xo-μx0)^2/(2σ0^2)} ただし、最初のΣはi=0~nの合計で、次のΣはi=1~nの合計 パラメータと状態の同時推定 †上記の尤度関数を最大とする状態xiとパラメータΘを求めればよい。 そこで、尤度関数の対数をとり、これをパラメータと状態に関して一回微分をとりゼロと置く。
上記の尤度方程式を連立して解くことで、最尤推定できる。 しかしながら、全体としては非線形であり収束計算が必要となる。
問題1:状態推定問題:パラメータ所与 †パラメータ所与のもとでの状態の推定(平滑:スムージング)問題である。
以上より、''パラメータからb0,b1,b2を与え、q0,qk(k=1~n-1),qnを観測データから計算しておけば 逐次内挿値Xk,k=1~nを求めることができる。'' 問題2:パラメータ推定問題:状態推定値所与 †最尤方程式の4式と5式を使って、パラメータを求めよう。 この場合内挿値xkが問題1を解いて与えられているものとする。 n個の状態内挿値の内積を定義する。 x'x=Σxi^2 Σはi=0~n-1の合計 x'u=Σxiui Σはi=0~n-1の合計 u'u=Σui^2 Σはi=0~n-1の合計 これから、下記の2つの式の形に、5式,6式が整理できる。 Σ(xi^2)f+Σ(xiui)g=Σ(xi+1xi) Σ(xiui)f+Σ(ui^2)g=Σ(ui+1xi) f,gは、上記の2個の線形連立方程式を解けばよい。 逐次推定 †すべての過去の状態の内挿値が、各期で必要になることが、難点であろう。 そこで、次の繰り返し計算を提案する。
良好な収束性を示したとの報告が、研究論文にある。 パラメータが、十分に収束した時点では、通常のカルマンフィルタ を用いた推定値で、問題1の最適内挿値の代用をしても良いであろう。 参考 †
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