資本コストとは

資本コストとは、企業側から見れば、資金の調達コストである。資金を調達する場合、借入や株式によるが、その調達コストを意味する。 一方、貸し手や出資者からみれば、その企業からの報酬です。借入に対する利息や株式に対する配当がその代表です。

  • 資本コストの計算は、いわば調達資金の「原価計算」であり、資金運用の基準値の計算と位置付けられる。
  • 日本は、諸外国と比べて、低金利であること、株主からの要求が十分反映されていないことから資本コスト(逆に言えば、貸し手や資本家への報酬)が抑制されてきたと言われている。
    • デフレ、土地担保主義などの影響で、借入金利が2000年以降低い水準で推移している。
    • 米国などと比べて、1.株式持合い、2.資本の論理を追求しない年金基金の存在、3.物言わぬ資本家などの原因で、資本の収益率に対する意識が高まらなかった。

荷重平均資本コスト:WACC(ワック)

資金調達は負債と資本によることから、全社の資本コストは、両者の調達レートの加重平均をとって算出する。

  • 負債の資本コストは、支払利息の金利。但し、支払利息は税金の計算上費用となるので、節税分を差し引いて考える。
  • 株式の資本コストは、株主がその会社の株式を買うことで何%の利回りを期待しているか計算して用いる。

このため、荷重平均資本コスト WACCの計算は、次式による。WACCとは、Weighted Average Cost of Capital の略。

WACC=[D/(D+E)](1-t)Rd+[E/(D+E)]Re
D:有利子負債
E:株主資本
Rd:負債の金利
Re:株主資本コスト
t:実効税率;支払利息が税務上損金になり、節税効果となるためです。
現在の実効税率は40.87%ですが、便宜上40%で計算するのが一般的。
株主資本:株主資本額時価の年平均値。企業の資本構成の実態に近い時価総額
(株価×発行株数)で計算するのが一般的です。
有利子負債: 簿価と時価が大きくズレることが少なければ、簿価でも問題ありません
  • 株主資本コストは、CAPMに基づいて計算。マーケットのbetaを使う。
    株主資本コスト= リスクフリーレート + β ×(マーケットリスク・プレミアム)
    リスクフリーレート=10年国債の利回り。実務的には過去5年から10年の平均値
    を使用することが多いようです
    リスクプレミアム=市場全体の投資利回り-リスクフリーレート
    β=個別株式の変動/株式市場全体の変動 (企業ごとに値が異なる)
    株式市場全体の変動は、実務的には東証TOIXの収益利率で代用
  • 有利子負債は期中平均残高を用いる。
    有利子負債コスト= 支払利息 / (有利子負債の期中平均残高)
    有利子負債の期中平均残高=期首有利子負債残高+期末有利子負債残高)/2
    • WACCは、将来予測期間に発生するであろう各年度ごとの期待キャッシュフローを現在価値に直す際に、時間価値分を割り引く、”割引率”として用いられる。確認可能な情報を前提として、算定人が独自の算定ロジックから独自に採用する前提条件の数値に基づき決定することから、この割引率の決定内容が算定書の評価結果を大きく左右する。
    • 通常は負債コストの方が資本コスト(配当率)を下回りますので、有利子負債の割合を高くするほど、WACCを引き下げることができます。
    • 配当率をそのまま株主資本コストとして使うのは問題がある。市場の株価や要求されるであろう報酬に応じて、株主資本コストを考える。つまり、リスクプレミアムの大きい企業やマーケットのベータが大きい時は株主資本コストは高くなる。
  • 変動要因:主なもの 株価評価時に変動幅が大きい部分に、以下の3つの要素がある。
    マーケット・リスクプレミアム
    適用したβ
    適用したD/Eレシオ
  • βとリスクプレミアムについては過去のデータを参照にして求めるが、これは将来のβとリスクプレミアムを理論的に算出することが不可能だからです。これがWACC(CAPM理論)の限界といわれています。
  • WACCによる割引率は、資本構成(負債と株主資本(時価)の割合)が将来にわたって一定であることを前提としている。逆に、将来の資本構成が変われば将来のWACCも変えなければいけない。DCF法でWACCを割引率に用いる場合、将来にわたって資本構成が安定していてWACCの変動が少ないと想定される場合に用いることができます。資本構成が変化する場合、将来のキャッシュフローが無借金の状態で得られると仮定して、現在価値を計算した上で、借入れをすることによるキャッシュフロー増加分(利払いにかかる節税効果)をプラスして価値算定する方法(APV法:アジャスティッド・プレゼント・バリュー法)もある。APV法は、負債の要素を切り分けて考えられるので、資本構成が大きく変化するような投資案件(例えばLBOや事業再生場面)でよく用いられます
  • リスクプレミアム:日本企業では一般的に4.5%~5.5%程度を用います。APV法では、借入金を増やすことによる節税効果を算定できますが、借入金を増やすことで上がる財務リスク(資本構成、借入金比率)を加味することができません。

DCF法による企業価値の計算

将来のキャッシュフローを割り引いて、企業価値の評価を行う。企業価値は、企業が将来生み出すフリーキャッシュフローの現在価値に等しいとする方法である。この時、割引率にWACCを使う。

  • 数年後に、増資などで大きく資本構成が変わることが分かっているときには、考慮に入れる必要がある。WACCが毎年変化する。
    • 例えば、2年後に資本構成が、大きく変わるとします。その場合には、1年目のCFは現在の資本構成でWACCを算出し、現在価値に割り引きます。 2年目以降は、変わった資本構成でWACCを算出して、これで現在価値に割り引きます。
      NPV=ΣFCFi/(1+Wacc)^i +継続価値
      前半はn年間のフリーキャッシュフローFCFの現在価値
      後半の継続価値はn年後以降に企業が永続的に成長し続けると仮定した場合の価値。
      フリー・キャッシュフローが定率成長するなど仮定して計算する。
    • DCF法で最も大きなインパクトを与えるのが、WACCや継続部分のキャッシュフロー成長率のといった割引率算定のために用いられる数字です。これらの数字が1%変わってくるだけで、DCFの算定結果は大きく変わってきます。特に、継続価値はインパクトが大きい。カネボウ事件の東京地裁決定では継続FCF成長率が0%とされている。カネボウ事件でも、株主側は裁判所が採用した8.5%というリスク・プレミアムに関しては高すぎる(リスク・プレミアムが高いと、株主資本コストが高くなり、WACCも高くなり、企業価値と株価は低く算定される)という批判をしています。

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Last-modified: 2010-07-31 (土) 12:17:56 (5028d)